『成瀬は天下を取りにいく』- 宮島未奈 こんな主人公でいい。こんな主人公がいい

「島崎、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」。 2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍、閉店を控える西武大津店に毎日通い、ローカル局の中継に映るというのだが――。

突拍子もないはじまり方をするこの小説。

青春小説なのだが、特に甘酸っぱくもなく、エモくもない。だけどそんな自由な「成瀬」という人柄に深く引き込まれていき、次第に成瀬のファンになっていく。

そんな『成瀬は天下を取りにいく』について感想を書いていきたいと思います。

あらすじ

中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍、閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。さらにはM-1に挑み、実験のため坊主頭にし、二百歳まで生きると堂々宣言。今日も全力で我が道を突き進む成瀬から、誰もが目を離せない! 話題沸騰、圧巻のデビュー作。

この小説は第20回R-18文学賞で大賞・読者賞・友近賞をトリプル受賞し、各界から絶賛されています。

話題性もさることながら「成瀬」というキャラクターに皆引き込まれてしまうストーリーが魅力です。

登場人物

成瀬あかり 滋賀県大津市生まれ、同市在住。島崎曰く一人でなんでもできてしまうがゆえ、他人の目を気にすることなくマイペースに生きている。いつもスケールの大きなことを言うが、日頃から口に出して種をまいておくのが大事だという考えを持っており、たとえ目標に届かなくても落ち込まない。もちろん目標達成することも多数で、かつては天才シャボン玉少女としてローカル番組で名を馳せたことも。将来の夢は、二百歳まで生きること。

島崎みゆき 自称成瀬と同じマンションに生まれついた凡人。成瀬家とは家族ぐるみの付き合いがある。私立あけび幼稚園に通う頃から、成瀬あかり史の大部分を間近で見てきたという自負があり、成瀬を見守るのが己の務めだと考えている。コミュニケーション能力が高く、友人も多い。両親は県外出身。

成瀬という変人

成瀬についていくだけで、こんなにも普段の景色が色づいていくのか。走り続ける彼女に振り回されながら、彼女の観ている景色をいっしょに観ていたいと思える小説でした。

夏休みに、閉店する西武百貨店に毎日通ったり、M-1に挑戦したり、琵琶湖でミシガンに乗ったりと、自分の思いつきで突飛な行動を繰り返します。

成瀬は天才的な発想力と行動力を持ちながら、野心家ではなく、自分の楽しみのために生きています。その中でも一番の目標は「200歳まで生きること」。頭もよく、行動力もあるがどこか浮いた存在である成瀬が、さまざまな人を巻き込みながら滋賀県大津を舞台に走り続けるのが読んでいて印象的でした。

きっと読んだ人なら、成瀬の変人性に一瞬あきれながらも、読み切ったころにはファンになっているはずです。

巻き込まれる人々

成瀬の幼馴染である島崎は、成瀬の一番の被害者というように見えるが、ほんとうは彼女のファン第一号であり、よきパートナー。

突拍子のない発言にいちばん巻き込まれてるのは島崎で、いつも成瀬に振り回されています。しかしその反面、成瀬に物怖じせずにツッコミをいれたり、渋々ながらもさまざまなことに付き合ってくれる島崎も成瀬の大ファンのようにも見えます。

この成瀬と島崎のコンビが青春の一コマを見せてくれるのがとても良い。

「島崎、わたしはお笑いの頂点を目指そうと思う」

普通だったら、漫才に付き合う人は少ない、いやめったにいない。

しかし、島崎は嫌々ながら漫才に付き合います。成瀬に多くの影響を受けているというのもあり、成瀬を見守ることで経験ができると感じているのでしょう。

そのほかにも多くのキャラクターが出てきては、成瀬に何かしらの影響を受ける。嫌ったり、好きになったり、ファンになったり。

成瀬が「200歳」まで生き続ける限り、その一挙手一投足に巻き込まれては影響を受ける人々が出てくるのがいとおしく感じます。

感想

「成瀬あかりの物語」の一端を見られたのがよかった。彼女は自分の思い通りに生きる自由な人で居続けてほしいと思うし、彼女のようなひとはなかなかいないだろう。

まだ成瀬の人生は始まったばかりだし、200歳まで生きるなら彼女は10分の1も生きていないことになる。これからも走り続ける成瀬の姿が想像できるし、またみてみたいと思う。

これは作者である宮島未奈さんの処女作ということもあるので、つぎにどんな小説が出てくるのかも楽しみ。

青春小説のイメージでいるけど、ドギツいドラマのある小説とかも楽しみ。

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